
セキュリティ予算とは、サイバー脅威から自社の情報資産や顧客データを守るために確保する投資のことです。中小企業にとって、限られたリソースの中で適切なセキュリティ対策を講じることは、事業の継続性や信頼性を守るための必須知識と言えます。
しかし、「どのくらいの予算を確保すればいいのか?」「経営層をどう説得すればいいのか?」といった課題を抱えているのではないでしょうか。セキュリティ予算の適正な割合が明確でないため、十分な投資ができずにリスクを抱える企業も少なくありません。また、サイバー攻撃は目に見えにくく、ROI(投資対効果)の説明が難しいため、経営層の理解を得るのが困難なケースも多いのです。
本記事では、中小企業向けに適正なセキュリティ予算の割合を解説し、経営層を納得させるためのポイントをわかりやすく整理します。さらに、サイバーリスクを低減しながら費用対効果の高い投資を実現するためのアプローチも紹介します。
この記事を通じて、自社に適したセキュリティ予算の考え方を身につけ、経営層を説得しながら効果的なセキュリティ対策を実現していただければ幸いです。
セキュリティ予算とは何か?基本から解説
セキュリティ予算とは、企業が情報資産を守るために確保する投資費用のことです。
近年、サイバー攻撃の手口は巧妙化しており、自社システムのセキュリティを高めるだけではなく、従業員のセキュリティ意識を高め、迅速な対応体制を整える重要性が増しています。
セキュリティ予算には、以下のような施策が含まれます。
- セキュリティ対策ソフトの導入(ファイアウォール、ウイルス対策ソフト、EDRなど)
- ネットワーク機器の整備(VPN、ゼロトラスト環境の構築)
- 従業員のセキュリティ教育(フィッシング対策研修、リテラシー向上施策)
- 緊急対応体制の強化(SOCの運用、インシデントレスポンス計画)
適切なセキュリティ予算の確保は、情報漏洩や業務停止といったリスクを最小限に抑え、信頼性を維持するために不可欠です。セキュリティ投資を経営戦略の一環として捉えることで、事業の継続性と競争力を高められるでしょう。
セキュリティ予算の割合と平均
企業が適切なセキュリティ対策を講じるためには、規模や業種に応じた適正なセキュリティ予算を確保することが不可欠です。
2024年10月にMOTEXが発表した「企業のセキュリティ対策実態調査」によると、企業の年間セキュリティ予算の分布は以下の通りでした。
- 300万円未満 :30.0%
- 300万円~500万円未満 :19.2%
- 1,000万円以上 :20.4%
また、企業規模が大きくなるほどセキュリティ予算の割合も増加し、従業員数1,001名以上の大企業では、1,000万円以上の予算を確保している割合が最も高いことが分かっています。
さらに、昨年度からセキュリティ予算を増加させた企業は41.9% に上りました。その背景には、サイバー攻撃や情報漏洩リスクの増大、ランサムウェア被害の深刻化、DX推進による新たなセキュリティリスクの発生といった要因が挙げられます。
サイバー攻撃の件数は年々増加しているため、セキュリティ予算を適切に確保し、サイバー攻撃のリスクを最小限に抑えることが不可欠でしょう。
セキュリティ予算はどれくらい確保するべきか?
セキュリティ予算額は企業規模や業種によって異なるとわかりましたが、「自社はどれくらいかけるべき?」と悩む方もいるでしょう。そこでここからは、企業規模別にかけるべき予算額を解説します。
大企業のセキュリティ予算傾向
大企業はグローバル展開や多拠点での業務拡大に伴い、セキュリティリスクが複雑化しています。なかでも、各国の異なるデータ保護規制への対応、リモートワークの拡大、クラウド環境の活用増加が、サイバーセキュリティ投資を押し上げる要因となっています。
業界別に見ると、金融機関やヘルスケア、IT・通信業界では、高度なセキュリティ対策が求められるため、一般的に売上高の3~5%をセキュリティ対策に充てるケースが多いです。
一方、製造業や小売業では、デジタル化の進展によりセキュリティ投資の必要性が高まっているものの、依然として予算割合は低い傾向があります。しかし、予算が低いからといって投資を怠るべきではありません。特に製造業やそのサプライチェーンを標的とするサイバー攻撃が増えており、積極的な対策が求められています。
また、大企業ではゼロトラストモデルの導入やSOC(Security Operations Center)の運用強化、AIを活用した脅威検知システムの導入など、最新技術を取り入れたセキュリティ戦略が進んでいます。
中小企業のセキュリティ予算傾向
中小企業のセキュリティ予算は、IT予算全体の10%~15%程度にとどまる傾向があります。しかし、近年の被害事例増加を受け、予算を引き上げる動きも見られます。
クラウドサービスの導入に伴い、ファイアウォールや侵入検知システム(IDS/IPS)への投資をする重要性が増し、従業員向けのセキュリティ教育に予算を割く必要もあります。
しかし、中小企業では「費用対効果」や「リソース不足」が課題となりがちです。経営層がITに詳しくない場合は、セキュリティ投資の重要性を理解してもらうために、実際の被害事例や業界平均データを提示することが有効です。
中小企業がセキュリティ予算を確保するための具体的なステップ
中小企業にとって、セキュリティ予算の確保は大きな課題です。限られたリソースの中で、効率的かつ効果的に予算を確保するには、現状のリスクを把握し、投資の必要性を論理的に説明することが求められます。ここでは、予算確保に向けた具体的なステップを解説します。
自社のセキュリティリスクを数値化する
まず自社のセキュリティリスクを数値化しましょう。
リスクを数値で示すことで、経営層に対して説得力のある説明が可能になります。具体的には、過去のインシデント件数や被害額、同業他社の事例を収集し、脆弱性評価レポートやペネトレーションテストの結果を活用します。
たとえば、日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)の報告によると、ランサムウェア攻撃の平均被害額は2,386万円とのことです。このようなデータを提示することで、経営層に潜在的リスクの深刻さを理解してもらいやすくなります。
費用対効果を算出する
経営層はセキュリティ対策の費用対効果を重視します。
投資に対するリターンを示すことで、単なるコストではなく、リスク回避のための投資として認識してもらえるようになるでしょう。ROI(投資対効果:Return on Investment)は、以下の式で算出可能です。
- (被害防止による損失削減額 − 投資額)÷ 投資額 × 100
たとえば、ランサムウェア攻撃による被害額が2,000万円、対策費用が500万円であれば、ROIは300%となり、投資価値の高さを示すことができます。
経営層の説得
経営層を説得する際には、具体的な数値データや事例を交えて説明しましょう。
たとえば、実際に被害を受けた同業他社の事例を紹介し、「A社では、サイバー攻撃により顧客データが漏えいし、信用失墜による契約解消が相次ぎ、1億円以上の損失を計上した」といった具体例を挙げることで、経営層の危機意識を高められます。
さらに、取引先や顧客からセキュリティ対策状況を問われるケースが増えている現状を示し、セキュリティ投資が競争力維持につながることを強調します。
スモールスタートで成功を積む
一度にまとまった予算を確保するのが難しい場合は、小規模な投資から始め、成果を可視化しながら拡張する「スモールスタート」の手法が有効です。
たとえば、以下のような施策から始めます。
- フィッシング対策研修の導入:従業員のセキュリティ意識向上を目的とし、定期的な訓練を実施
- EDR(Endpoint Detection and Response)の試験導入:一部の部署で運用し、効果を測定
- ゼロトラストの部分導入:VPNを廃止し、SASE(Secure Access Service Edge)環境をテスト導入
また、成果の可視化には、「セキュリティインシデントの減少」「従業員のフィッシングメール検知率の向上」「システムの脆弱性対応スピードの改善」などの指標を設定すると、投資効果を判断しやすくなります。
スモールスタートのメリットは、初期コストを抑えながらリスクを低減し、段階的に拡張できる柔軟性にあります。まずは小さな成功を積み重ね、経営層や現場の理解を得ながら、全社的なセキュリティ強化へとつなげることが重要です。
予算の拡充
スモールスタートで得た成果をもとに、次年度以降の予算拡充を提案します。セキュリティ対策は一度きりの施策ではなく、継続的な見直しと改善が必要です。
新たな脅威に対応するためには、定期的に予算を見直し、必要に応じて増額する計画を立案します。たとえば、次年度はクラウドベースのSIEMを導入し、異常検知能力を向上させるといった具体策を示せば、経営層の理解を得やすくなるでしょう。
経営層にセキュリティ予算の確保を理解してもらうポイント
セキュリティ予算を確保する際の最大の課題は、経営層の理解を得ることです。セキュリティ対策は売上に直結しにくく、利益を生む「攻めの投資」ではなく、リスクを回避する「守りの投資」として捉えられがちです。
しかし、サイバー攻撃による被害は年々深刻化しており、予算を後回しにするリスクは計り知れません。経営層を納得させるための効果的なアプローチを紹介します。
リスクの数値化
リスクを数値化することで、説得力を高められます。経営層にとっては、抽象的なリスクよりも、具体的な損失額のほうが理解しやすいためです。
具体的には。「サイバー攻撃で顧客データ1万件が流出した場合、想定被害額は5,000万円」といった具体的な数字を提示します。この際、客観的な調査や統計データを示すことで、経営層の危機意識を効果的に高められます。
経営層の視点で説明
単にセキュリティ効果を伝えても、経営層には響きません。
経営層が関心を持つのは、セキュリティ対策そのものではなく、それが企業経営にどのような影響を与えるかという点です。「サイバー攻撃で生産ラインが2日間停止すれば、売上が数千万円減少し、納期遅延によって取引先の信頼を損なう」と説明すると、より具体的に伝わります。
また、データ漏洩やシステム障害が自社ブランドの毀損や法的責任につながる点も訴求しましょう。個人情報保護法やGDPRへの対応が不十分な場合、制裁金のリスクがあることを示すと、経営層の関心を引きやすくなります。
さらに、同業他社の事例の提示も効果的です。「B社はセキュリティ予算をIT予算の5%から7%に引き上げ、ランサムウェア対策を強化した結果、フィッシング詐欺の被害が前年から50%減少した」という成功事例を紹介します。
また、「C社は情報漏洩により顧客契約を失い、数千万円の損失を被った」といった失敗事例を示せば、対策の重要性をより明確に伝えられます。十分なセキュリティ予算を確保するためには、以下に経営層に自分事化してもらえるかどうかが重要です。
具体的な導入プランの提示
リスクの数値化や競合の事例で訴えても、具体的なプランがなければ「だから何?」と言われてしまうでしょう。
経営層は不確実性を嫌うため、具体的な導入プランを提示することが重要です。「何にいくら投資し、どのような効果を期待できるのか」を明確にすれば、承認を得やすくなります。
たとえば、「次年度はファイアウォールとEDRツールの導入に300万円を投資し、内部ネットワークの可視化と不審な動きの即時検知を可能にする。導入後6カ月で効果測定を行い、必要に応じて改善する」といったロードマップを示すと、経営層の理解が深まります。
計画には「導入スケジュール」「期待される成果」「コスト削減効果」などを盛り込み、ビジネス目標と整合性があることを明確にします。
投資対効果の強調
経営層にとって最も重要なのは、投資に見合う効果が得られるかどうかです。セキュリティ対策も、企業の資産を守る「投資」として捉えることが重要です。
たとえば、1,000万円のセキュリティ投資を行うことで、ランサムウェア被害を未然に防ぎ、推定被害額5,000万円を回避できると試算できます。この5,000万円の内訳として、以下が考えられるでしょう。
- システム復旧費用(数百万~1,000万円)
- 業務停止による売上損失(数千万円規模)
- 取引先・顧客からの信用低下による長期的な影響
また、セキュリティ事故が発生すれば、金銭的損失だけでなく、企業ブランドや顧客信頼の毀損にもつながり、経営への影響は計り知れません。
セキュリティ投資の価値を明確に示すためには、ROIを測定し、「投資によりどれだけのリスクを軽減できるのか」をデータで示すことが重要です。
セキュリティ予算に関するよくあるQ&A
セキュリティ予算については、企業の経営層や現場担当者から多くの質問が寄せられます。ここでは、特に多い疑問に対し簡潔に回答します。
Q1: セキュリティ予算はどれくらい確保すべき?
A: 大企業の場合は売上高の3~5%、中小企業の場合はIT予算の10〜15%が目安となります。
Q2: セキュリティ対策の費用対効果は?
A: 「ROI =(被害回避額−投資額)÷投資額×100」。被害回避額は過去の被害額や業界平均をもとに算出可能です。
Q3: セキュリティ予算を確保する方法は?
A: リスクの数値化と同業他社の事例提示が有効。経営層にはビジネスインパクトを重視した説明をしましょう。
Q4: セキュリティ投資の重要性を経営層にどう伝える?
A: 被害による売上損失や信用低下など、経営視点での影響を具体的に説明することが重要です。
まとめ
情報セキュリティの脅威が進化する中で、企業の存続と成長を支えるためには、適切なセキュリティ予算の確保が欠かせません。
特に中小企業では、限られたリソースの中で効果的なセキュリティ対策を実施するために、リスク評価、費用対効果の算出、経営層の説得といったプロセスを体系的に進める必要があります。
また、セキュリティ予算は「攻撃を防ぐ」対策に偏りがちですが、サイバー攻撃を100%防ぐことは不可能なため、被害を最小限に抑える対策も必要です。
近年、サイバー攻撃の被害はダークウェブ上での情報売買によって拡大しています。ダークウェブは通常の検索エンジンではアクセスできず、匿名性が高いネットワークで、企業の機密情報や顧客データ、盗まれた認証情報が売買される主要な場です。
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