
NASに保存していた業務データが、まるごと暗号化されていた。
このようなランサムウェアの被害は、中小企業にも急速に広がっています。特にNASはネットワーク経由で常時アクセス可能なため、感染したパソコンから侵入されやすく、バックアップまで破壊されるケースも少なくありません。
さらに深刻なのは、ランサムウェアによる一次被害の後に発生する二次被害です。漏えいしたファイルやID・パスワードがダークウェブで売買されるリスクがあるためです。セキュリティ設定や物理的な構成だけでは、防ぎきれない段階に入っています。
本記事では、NASがなぜ狙われやすいのか、どのような構成で守るべきか、そして感染時の対応までを体系的に解説します。あわせて、ダークウェブへの情報流出を検知できる無料の監視デモも紹介しています。
対策に抜けや漏れがないかを確認するためにも、今すぐチェックを始めてください。
NASがランサムウェアにとって絶好のターゲットとなる理由
企業のデータを安全に保管するためにNAS(Network Attached Storage)を導入している中小企業は多いのではないでしょうか。しかしその一方で、NASはランサムウェアにとって非常に狙いやすいターゲットでもあります。
これは単なるストレージ機器ではなく、ネットワーク上で常時稼働しているファイルサーバーとしての性質があるためです。ここでは、なぜNASが攻撃対象になりやすいのか、4つの観点から詳しく解説します。
感染したPCから簡単にアクセスできる
NASは社内の複数端末から共有アクセスできるよう、ネットワークドライブとして常時接続されているケースがほとんどです。
たとえば、社員のPCにマウントされた「Zドライブ」がNASを指しており、共有フォルダが開放されている状態を想像してください。そのPCがEmotetなどのマルウェアに感染すると、ランサムウェアはそのネットワークドライブ経由でNASに保存されたすべてのファイルにアクセスし、次々と暗号化していきます。
バックアップ先として活用しているNASも、こうしたルートで同時に被害を受けてしまうことがあります。つまり、感染源がNASそのものではなくても、NASが被害を受けるのは時間の問題なのです。
同期型バックアップはむしろ危険
多くの企業が「NASに自動バックアップしているから大丈夫」と考えがちですが、これはむしろ危険な構成です。リアルタイム同期を前提としたバックアップ体制では、本番のデータが暗号化された瞬間、その変更内容がそのままNASのバックアップ領域に反映されてしまいます。
つまり、本番データとバックアップの両方が暗号化されて使えなくなるという、最悪の事態が発生します。
このような被害を防ぐには、同期ではなく履歴管理つきの非同期バックアップやスナップショット方式に切り替える必要があります。暗号化の被害からデータを守るには、そもそも仕組みの設計から見直すべきです。
セキュリティ設定が甘いNASが多すぎる
中小企業の現場では、導入したNASのセキュリティ設定が初期状態のまま運用されているケースも少なくありません。たとえば、adminというIDとadminというパスワードがそのまま使われている、外部からWebアクセスできる設定が有効になっていたり、古いSMBv1プロトコルが無効化されていなかったりと、攻撃者にとって入り放題の状態になっているNASが散見されます。
さらに、社内全員が自由に読めて書き込める「Everyoneフルアクセス」状態でフォルダ共有している場合、1人の感染が全社的な被害に直結します。セキュリティが甘いNASは、ランサムウェアの入り口として機能してしまう危険性があるのです。
NAS自体を狙ったランサムウェアも登場している
近年では、NASそのものを標的にしたランサムウェアも登場しています。代表的な例として、DeadBoltやSynology向けに設計されたランサムウェアなどが確認されています。これらは、PCからの感染ではなく、NASの管理画面や脆弱なサービスに直接アクセスして暗号化を行うという、まったく新しい攻撃スタイルです。
つまり、PC経由の感染に備えるだけではもはや不十分であり、NASそのものがセキュリティ対策の主戦場になりつつあるのです。NASを単なる保管庫と見なすのではなく、ネットワーク上に存在する重要資産として、セキュリティの前提を改める必要があります。
NASのランサムウェア対策:8つのポインポイント
NASがランサムウェアの標的になりやすいという現実を前に、対策を先送りにしている方も多いのではないでしょうか。実際に被害が起きてからでは、業務継続に甚大な影響を及ぼすだけでなく、復旧にも多大なコストと時間がかかります。ここでは、今すぐ実行できる8つの実践的な対策ポイントをご紹介します。
スナップショット機能を必ず有効にする
NASに保存されたデータを守るうえで、もっとも強力な防御策のひとつがスナップショット機能です。これはファイルの状態をある時点で保存しておき、必要に応じてその時点に「巻き戻す」ことができる仕組みです。
ランサムウェアによってファイルが暗号化された場合でも、スナップショットがあれば感染前の状態に復元できる可能性があります。
特に重要なのは、自動実行と多世代保存を組み合わせることです。
1日1回、1週間分のスナップショットを残すといった設定をしておけば、感染に気づくまでの猶予を確保できます。また、スナップショットが通常のデータ領域とは分離されていれば、ランサムウェアの攻撃対象から外れることも期待できます。
常時接続を避け、オフラインバックアップ構成を作る
NASは便利な一方で、常にネットワークに接続されたままだと、感染経路として開かれた状態になります。最も堅牢な防御策は、バックアップ先を物理的に切り離すこと、つまりオフライン化することです。
たとえば、週に一度、USB接続の外付けHDDにバックアップを退避し、その後物理的に取り外しておく方法があります。あるいは、別のNASにバックアップを取り、そのNAS自体の電源を普段は切っておくという運用も有効です。オンラインでつながりっぱなしのNASは、ランサムウェアにとってもうひとつの感染対象にすぎません。切り離すことで、初めて本当の意味で守られたバックアップが実現します。
NASと接続できる端末・ユーザーを最小限に制限
NASにアクセスできる端末やユーザーの範囲が広すぎると、それだけリスクが増します。アクセス制限は、以下の3層で設計するのが基本です。
- IPアドレスやネットワークセグメントごとにアクセス可否を制御
- ユーザー単位で認証を行い、不要なIDや共通パスワードの使用を避ける
- 権限設定で「読み取り専用」「書き込み不可」など細かく制限をかける
とくに注意すべきは「Everyoneフルアクセス」のような設定です。これでは1人の誤操作や感染が、NAS全体のデータに影響を与えかねません。たとえば、管理者PC以外は読み取り専用フォルダしか使えないように設計するなど、用途に応じた細分化が必要です。
バージョン管理のない同期バックアップはやめる
ファイルの同期は一見便利ですが、ランサムウェアに対しては致命的な弱点になり得ます。なぜなら、暗号化されたファイルが即座に同期先にも上書きされてしまい、バックアップの意味を失ってしまうためです。
このリスクを避けるには、バージョン履歴を保持できるバックアップ方式、あるいはスナップショット型に切り替える必要があります。
「いざというときに元に戻せる構成かどうか」を、今一度確認してみてください。バックアップは取っているつもりでも、実際には同じリスクを共有しているだけかもしれません。
NASの管理画面を外部公開しない
多くのNAS製品は、Webブラウザ上から設定変更やファイル管理ができるGUI管理画面を備えています。
この管理画面は非常に便利ですが、インターネット上に公開されたままの状態で運用していると、攻撃者の格好の標的となります。
たとえば「社外からもアクセスできるようにしたい」といったニーズがある場合でも、ポート開放などで直接アクセス可能な状態にするのではなく、VPN(仮想専用線)経由で接続するのが原則です。インターネット上に管理画面をさらす行為は、玄関の鍵を開けっ放しにしているのと変わりません。利便性よりも安全性を優先すべきポイントです。
NAS自体を定期的にアップデート
NASは単なるハードディスクではなく、内部でOS(オペレーティングシステム)が動作しているネットワーク機器です。OSや管理ソフトウェアに脆弱性があれば、ランサムウェアはそこを突いて直接侵入してきます。
このような事態を防ぐためには、NASのファームウェアやOSを定期的にアップデートすることが欠かせません。可能であれば自動更新を有効にし、そうでなければ週に一度は手動で更新確認を行う運用ルールを設けてください。
たった1つの未更新設定が、全データの喪失につながるリスクを招きます。
スクリプトによる自動バックアップに退避条件を入れる
バックアップを自動化している企業も多いかと思いますが、そのスクリプトが単純に毎晩ミラーリング実行だけになっていないか確認が必要です。ランサムウェアに感染したタイミングでそのまま暗号化されたファイルがバックアップに上書きされてしまえば、意味がなくなります。
そこで有効なのが、異常検知によるスクリプト停止の仕組みを組み込むことです。
たとえば、特定の拡張子(.lockedや.7zなど)が大量に発見されたとき、ファイルサイズが急増したとき、または変更回数が一定数を超えたときなどに、自動的にバックアップを停止する条件を設けます。
完璧な対策にはならないかもしれませんが、被害を最小限にとどめる防波堤として機能します。
管理者アカウントと一般ユーザーのアカウントを分離する
日常業務で使用しているアカウントに管理者権限が付与されていると、ランサムウェア感染時の被害が深刻化します。たとえば、ファイルの読み書きはもちろん、設定の変更やスナップショットの削除までが可能になってしまうため、あらゆる手段での復旧が阻まれるおそれがあります。
そのため、管理者アカウントは運用管理専用として隔離し、日常業務では閲覧専用または限定的な権限のアカウントを使うように設計してください。
さらに安全性を高めるには、管理者用の端末を別に用意し、通常業務とは切り離して運用することも検討すべきです。「感染=全損」にならない構成にすることが、最悪の事態を避ける鍵となります。
ランサムウェア対策に強いNASの選定ポイント
ソフトウェア面の対策をいくら施しても、ハードウェア自体に弱点があれば抜け道は必ず生まれます。つまり、安全性の高いNASを選定することは、対策のスタート地点であり、最後の防衛線でもあるのです。
ここでは、ランサムウェアのリスクを最小限に抑えるために、導入時にチェックすべき3つの選定ポイントをご紹介します。
スナップショット機能とWORM対応の有無を確認する
高機能なNASには、スナップショット機能が標準搭載されています。これはデータの「ある時点の状態」を保存しておく機能で、ランサムウェア感染時に元の状態へ巻き戻せる、いわば時間を戻す保険です。スナップショットを搭載していないNASは、対策の幅が大きく狭まるため、必須のチェックポイントと言えるでしょう。
また、WORM(Write Once Read Many)対応も重要です。これは、一度書き込んだファイルを変更・削除できないようにする仕組みで、監査ログや法的文書の保存にも活用されます。特定のフォルダやボリュームだけでもWORMに対応していれば、万が一の暗号化を回避できる可能性が高まります。業務データとログデータを切り分けて運用する際などに大きな効果を発揮します。
VPN経由運用や多段階アクセス制御が可能か
セキュリティ設計において、物理的な隔離や多段階のアクセス制御は基本中の基本です。製品を選ぶ際は、VPN機能が標準で搭載されているか、もしくはルーターと連携して安全にリモートアクセスできる設計になっているかを確認しましょう。
加えて、ユーザー権限のきめ細かな設定(読み取り専用/書き込み不可など)、アクセスログの記録機能、フォルダごとの認証設定といった多段階制御ができるかも重要です。これらの機能が不十分なNASは、万が一の際に感染範囲を最小限に抑えることが難しくなります。
セキュリティアップデートの頻度とサポート体制を見る
どれほど高機能なNASであっても、セキュリティアップデートが定期的に提供されなければ意味がありません。実際に、OSの脆弱性を放置したままのNASがランサムウェアに狙われるケースは後を絶ちません。
選定時には、メーカーがどの程度の頻度でアップデートを配信しているか、既知の脆弱性にどう対応しているかを必ず確認してください。
また、いざというときにサポートが受けられる体制が整っているかどうかも重要です。国内拠点の有無、日本語でのサポート可否、緊急対応の体制なども選定基準に加えることで、万が一のトラブルにも迅速に対応できる環境が整います。
性能だけでなく運用後の安心まで含めて製品選定することで、ランサムウェア対策の効果を最大化できます。
万が一、ランサムウェアに感染した場合のNAS対応フロー
どれだけ対策を講じていても、サイバー攻撃は常に進化しており、完全に防ぐことは困難です。そのため、万が一ランサムウェアに感染してしまった場合の初動対応フローをあらかじめ整備しておきましょう。
ここでは、NASが被害を受けた際に取るべき4つの対応ステップを解説します。慌てず、冷静に被害の最小化を図るための参考にしてください。
NASとすべての端末のネットワークを即時切断する
感染が判明したら、まず最優先で行うべきはネットワークの遮断です。
NASを含むすべての社内ネットワーク機器をルーターから切り離し、ウイルスの拡散を防ぐことが急務です。感染が進行している最中であれば、遮断のタイミング次第で暗号化されていないデータを守れる可能性があります。
とくに注意すべきは、VPNやクラウド同期を通じて社外端末とも接続されている環境です。LAN内だけでなく、広域に感染が拡大するリスクがあるため、NASだけでなく、PC・サーバー・Wi-Fiアクセスポイントなど、関係するあらゆる機器の通信を遮断してください。
スナップショットから復元する前に、感染範囲を特定する
スナップショット機能が有効になっている場合、慌てて復元作業に移る前に「どこまで感染しているか」の把握を優先してください。なぜなら、感染が広範囲に及んでいるにもかかわらず、復元後に再び暗号化されるリスクがあるためです。
たとえば、感染源となったPCがネットワークにつながったままの場合、復元直後に再度暗号化が始まることもあります。感染ファイルの存在場所、被害を受けたファイル形式、アクセスログなどを確認し、安全が確保された範囲でのみスナップショット復元を実施してください。
ログから侵入経路と時刻を特定し、報告フローを整備する
NASやルーターのログには、いつ・どこから・誰がアクセスしたかという記録が残っています。これを確認することで、感染が始まった時刻や経路、攻撃者のIPアドレスなどを特定できる場合があります。これらの情報は、社内のセキュリティポリシー見直しや、再発防止策の設計に不可欠です。
また、インシデントが発生した際は、経営層・総務・法務などへの報告フローも必要です。誰がどのタイミングで対応するか、通知の内容はどうするかといったオペレーションを事前に整備しておくことで、被害拡大や情報漏洩リスクのコントロールがしやすくなります。
必要に応じて弁護士・警察・インシデントレスポンス業者へ連絡
ランサムウェアによる被害が深刻である場合、社内対応だけでは限界があります。たとえば、顧客データや取引情報などの漏洩リスクがある場合は、法的対応が求められることもあります。
こうした場面では、弁護士や情報セキュリティの専門家と連携しながら、対応の方針を決定していく必要があります。
また、サイバー犯罪に関しては、都道府県警察のサイバー犯罪対策課やIPA(独立行政法人情報処理推進機構)への通報も推奨されています。さらに、緊急対応を専門とするインシデントレスポンス業者に依頼すれば、被害状況の把握や復旧支援、再発防止策の立案までを支援してくれるため、リソースの乏しい中小企業にとっては有効な選択肢です。
早急にNASのランサムウェア対策を!
NASは、中小企業にとって業務データの中核を担う重要なインフラです。しかし、その便利さゆえに「常時接続されている」「設定が緩い」「全社的に共有されている」といった特性が、ランサムウェアの格好の標的になってしまっています。
すでに数多くの企業が、たった一台の感染端末をきっかけに、全データを失うという深刻な事態を経験しています。
こうしたサイバー攻撃のリスクは、表面化した被害だけでは終わりません。漏えいしたIDやパスワード、機密ファイルがダークウェブ上で売買され、二次被害に発展するケースも後を絶ちません。
そのため、技術的対策とあわせてダークウェブ監視の導入が、いま企業の情報保全において欠かせない視点となっています。
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